2009年05月20日

「沖縄で思いがけず、私は何かに衝突してしまった」 I Won't Be Silent Anymore

(みねまいこが狂ったと思うなよ。今日は、カフカの『変身』みたいなはなし)

沖縄、琉球大での学会発表は、楽しかった。私の発表中、会場の中からひとりだけ「うん!うん!」と声を出して反応がある。アメリカの黒人教会ならば「Oh, Yes! I will.」とか「Amen!」のようなノリだろうか?なんとなく普通じゃない方だな、と思っていたら、あとから友人からきいたところによれば、私がやっていることの第一人者のめちゃめちゃ有名な某大学の教授だった。なんでも12月に別の学会があるから、そこで私が発表するようにということだった。

さて、沖縄は思っていた以上にすごかった。夕方、1日目の学会が終わりバスの中から、風景をながめていた。琉球大のある那覇市郊外には、女性の子宮を形どった墓がどっかりと地面に根を張り、その脇を高校生の男の子がアイスバーを片手に自転車で通り過ぎていった。墓のそばの畑では、おばあさんがエプロンみたいな薄手の服を、着ているのか、脱げかかっているのか、おそらく全身で風化しかかっていたのかと思う。おばあさんが、ただ立っていた。夕暮れ、ただ立っていた。

那覇の市街地を歩く。アメリカの文化と日本本土の文化と、台湾の文化とそして沖縄の古い伝統文化との4つがあって、それらを状況に応じて複雑に選択しているような気がした。いろんな人と話してみて不思議だったのは、自分の好きなものだけに集中して宗教的なまでにわが世界の構築を繰り返し、実はそこに自ら軟禁状態になっているようなバランス感覚の悪い人たちがいなかったことだ。それはたぶん、何かひとつのたとえば大きなグローバリズムのようなものがやってきたときに、十分逃げたり闘えるということでもあると思う。それがもし1つの文化だけでほそぼそとやっていたとしたら、簡単に大きな波に飲まれて負けてしまう。スターバックスが林立したり、大企業が戦略的に流す情報が大きな事件になったり、重箱の隅をつつくような趣味を展開したり、「それしかない」ということはそういうことだ。

島唄を初めて生で聴いたけど、なんとか歌えた。ステージで、島唄のトップクラスの歌い手と一緒に歌った。感激。実際に歌ってみた印象は日本古来の持っている「歌」のメソメソした感じがまるでなかったこと(もちろん音階とコードの違いは大きい)。百人一首からつづくメソメソ感。額田大王らはちょっとちがうけど、読めばわかる。実にみんなしょーもないことで、メソメソしてきた。髪を長くしてひきこもりみたいに奥の部屋に住んで太陽も浴びず、昼夜逆転の生活、体力は失われるばかりの生活をすれば当然そうなっちゃう。百人一首のメソメソ感は、J-POPへと続いている。その影響力の強さはある意味すごいのだが、今回うたった島唄は奇麗な色の鳥のことも、戦争も、セクシャルないらやしいことも、親が死んだことも、男と女の清純さも、すべてからっと乾いていた。明るかった。

さて、観光をして、いよいよ福岡に戻ることになった。夜の便だった。「もうすぐ福岡空港に着陸します」というアナウンスに飛行機からの夜景をふと見た。その時だった。福岡の街が、くねくねと生き物になった。ビルのひとつひとつが巨大なナマズのようなドロのような色をして、ミミズの全身がツルンと、のっぺらぼうになったような暗い生き物に見えた。そしてビルの灯が、赤い目だった。それらの気持ちの悪い生き物は口はなく、赤い目をふたつ光らせて、くねくねと上空にむかって当てもなくうごめいていた。それが一斉なのだ。見渡す福岡の街がすべて、その生き物で埋め尽くされていたのだった。

私が狂ったのか、と一瞬思った。でも、こういうことなのだ、と了解した。これは自分の中の確信なのだ。私は、ここまでこの街、もしくは自分の属している生活の背景、自分の今の状況がこれほど嫌いなんだと確信した。確信しても、それでも冷静ではいられなかった。本当に眼下では、異様な赤い目の生き物が体をくねらせて街一面、垂直にはえていたのだから。

いろいろな憎しみの感情が湧いた。あんたの心の弱さが嫌い、あんたの重たいプライドが嫌い、あんたの小心さが嫌い、あんたのしつこさが嫌い、24時間他人に認めてもらわないと生きた心地がしないmixiみたいな性質のあんたの行動が嫌い、あんたのすすり泣きが嫌い、あんたの社会性の無さが嫌い、ぐずぐずして人生を決められないあんたが嫌い、あんたの大人になりきれない甘えが嫌い、実は形式しかない/誰も信じてないくせに/意地でも残そうとする男尊女卑の祭りが嫌い、バカな男を肯定してあげる一歩下がってあげる女が憎い、出席番号は常に男子から/生徒会長も男子が望ましい/そんな中学校で、自分の才能を自分で押し出しちゃったり、諦めることを大人になることだと悟る女の子たちを目の前で見てて、手を貸さない大人の女たちが憎い、自分の壊れやすい何かが壊れないようにガラス細工のように「自分」てやつを頑強に守るあんたが嫌い、自分の頭が悪いせいで人生を難しくしてばかりのあんたがぜんぶ悪い。そう、こんなふうに。

地上に着いたら、その生き物はふつうのビルになり、気配さえもなかった。でも、私の中で悪寒として残っていた。家に着いて、眠る直前にもうれつな気持ちの悪さがあり、その後で全身が火のように熱かった。服を脱いで見ると、あちこちに真っ赤な珊瑚礁のような腫れ物ができていた。表面がガタガタと浮き出てくる。ほんのちょっとの肌の滑らかさもなかった。鏡で顔を見た。顔は大丈夫だった。しかし、ショッキングピンク色のクマが目の周りにできていて、なにやら幸せそうな薬物中毒者のようだった。いやいや、それどころではない。

首から下のその異様な熱さは、その後で猛烈なかゆみになった。掻きむしる度に、あの上空から見た不愉快な生き物を思い出し、怒りを覚えた。そのガタガタとした真っ赤なできものが首から下、やがて全身にひろがっていった。こんなことってあるのだろうか。いつか写真で見たグレートバリアリーフというのか、珊瑚礁の棚のような出来物が体に浮き上がって、つぎつぎに私の体を占領して行った。

ところで、沖縄ではずっと前は小学校で「遺骨拾い」の時間があって、生徒が近くのガマなどに拾いに行っていたという、そんな、今回の沖縄滞在で、芥川賞作家の又吉秀喜氏から聞いた話とからみあったのだと思う。夢中で体にできた大量の赤い腫れ物と格闘していると、白い骨と、みやげ品店で見かけた、白くなった珊瑚の死骸がたくさん目の前に浮かんだ。そして目を閉じると、なおさらふたつがカサカサと白く降り積もるのだった。

目を開けると私の皮膚には、白いカサカサとした骨になる前の「血と肉を持つ人間たち」が赤い珊瑚になって浮かんでくる気がした。そしてその珊瑚はやはり、今はやがて白くカサカサになる前のまだ生きている「赤い珊瑚」なのだが、そういったものが表面に染み付いて、一瞬で私を大量に占領した。そして絶望的に私の皮膚の上の腫れ物は決して死んではくれず、私の制御できない力をもって、いっそう生きようとしているようだった。

ヒステリーなのだろうか?アレルギーなのだろうか?病院に行っても、医者はわからないと言った。もらった薬を飲んだらしばしおさまるのだけど、気をゆるすと、また腫れ物がいっせいに出てくる。しかしスタジオでのリハーサル中は出ない。でも終わるといっせいに出てくる。これはいったい何なのだろう?わからない。いっせいに生き生きとした赤い珊瑚が皮膚の上で生命力を吹き返す、そして私はそれをコントロールできない。そこで、私は自分を放っておく。何もしない。顔から下にはまともな皮膚がない、私の体には珊瑚ばかり。

自分の中で次々と生まれてくるのは、怒り。
根治しないのはいつも、怒り。
生命力というべきか。

誰かが言っていた。「みねさんは巫女的な性質がある」だとか、西洋のキリスト教会では「霊的感性が他の人よりも圧倒的に優れている」だとか。人が言っていたのは、このことなのだろうか。家族や友人は、私の体の異様さを見て「元海軍司令部壕の手榴弾の跡に似ている」だとか「血しぶきみたい」だとか「人間から異形の存在に変化する」なんて勝手なことばかり言っている。そんなわけないだろ。

何もできない、皮膚が不愉快でたまらない。ひたすらうめいていた、でもいいことを思いついた。珊瑚は地球温暖化で1度海水の温度が上昇したら死滅する。だから、私も1度平均体温を上げよう。無謀な試みはいつの時代も同じ。私はアメリカの西部開拓者のように、西へ向かった。奇妙な思いつきではあるものの、自転車で西へ、佐賀県に行くことにしたのだ。

走りながら私は風景を見ていなかった。南部戦線で一家全滅しての無人になった民家や、ひめゆりの女の子たちが大事にしていたおしゃれな雑誌の切り抜きやかわいい柄のハンカチが見えた。沖縄では光の量が多すぎていつもすべてが白っぽかった。そんな強烈に焼き付いた像から逃れるために自転車で走った。

結局、佐賀にはたどり着けなかったが、福岡市の中心から西へ20数km進んだ時に、体中から珊瑚がどんどん消えていくのを感じた。得体の知れない私の中の怒りは消えて、後には妥協という名の平和な生活が待っているのかもしれなかった。死滅してしまえば、もったいない気もした。記念に一部分残しておけばよかった。山をいくつ超えましたっけ?ああ、ため息とともに、自転車の向きをかえ、来た道をまた20数kmかけて戻った。
posted by minemai at 11:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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